『逃げるは恥だが役に立つ』などで国民的な女優となった新垣結衣さんと、元SMAPで近年は俳優としての評価もうなぎ上りの稲垣吾郎さんが共演していることで話題になっている映画『正欲』が11月10日に公開されました。
原作は朝井リョウさんの同名小説で、活動10周年を記念して刊行された書き下ろし長編小説です。
ヘビーな題材で打ちのめされました…!
一部本編のネタバレに踏み込む記述があるため、鑑賞前の方はお気をつけください
映画『正欲』あらすじ
横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた。
同じ地平で描き出される、家庭環境、性的指向、容姿
映画『正欲』公式サイト (bitters.co.jp)様々に異なる背景を持つこの5人。だが、少しずつ、彼らの関係は交差していく。
まったく共感できないかもしれない。驚愕を持って受け止めるかもしれない。もしくは、自身の姿を重ね合わせるかもしれない。それでも、誰ともつながれない、だからこそ誰かとつながりたい、とつながり合うことを希求する彼らのストーリーは、どうしたって降りられないこの世界で、生き延びるために大切なものを、強い衝撃や深い感動とともに提示する。いま、この時代にこそ必要とされる、心を激しく揺り動かす、痛烈な衝撃作が生まれた。もう、観る前の自分には戻れない。
家庭環境、性的指向など現代社会を渦巻く複雑な社会問題が描かれている作品です。
このような題材を、新垣結衣さんと稲垣吾郎さんという誰もが知っているスーパースターの共演で映画化するということにとても驚きました。
わたしたちが知っているガッキーと吾郎ちゃんとは全然違う姿だった…。
映画『正欲』レビュー
ここから、私が実際に本作を鑑賞した上での感想をまとめていきます!
豪華俳優陣の新境地!主演2人の演技の凄み
水に性的な興奮を覚えて恋愛感情を持たないという指向を持った女性・桐生夏月を演じる新垣結衣さんと、優秀な検事でありながら家庭では不登校の息子に対して向き合わず亭主関白的な振る舞いを改めない男・寺井啓喜を演じる稲垣吾郎さんという役柄にまず驚かされました。
二人ともキャリアを順調に重ねたからこそできる役柄だと思いました!
中国地方の実家に住む桐生夏月は結婚と出産をするべきという世の中の風潮に嫌気がさしながら、周囲に共感できる人間もおらず日々孤独に過ごしています。
しかし、そこに同級生・佐々木が帰郷したという事実を知ってから、彼女の人生は少しずつ動き始めます。
その佐々木も水に対して性的興奮を覚えるという感覚を中学時代に共有した数少ない同士だったのです。
ひたすら無感情に日々を過ごしていた頃から、佐々木の登場により少しずつ感情に揺らぎを感じ始める夏月を、新垣結衣さんが繊細な演技で見事に表現していました。
職場の妊婦からの話を死んだ目で聴いているガッキーが印象的…。
その一方、検事として日々を過ごす寺井は、世の中の倫理から外れた指向を持つものを理解できないでいました。
不登校の息子がYoutubeを始めると言った際に呆れた態度をとり、それ以上の会話を拒んで厳格な父として振る舞います。
寺井の言うことは正論だけど、正しさの圧が強すぎてしんどい…。
我々が観てきたSMAPの稲垣吾郎は穏やかなキャラクーだったゆえに、妻に対して「飯を出せ」と冷たく言う姿には驚かされました。
しかし、稲垣さんは人に髪を触られるのを極端に嫌がったり潔癖な印象も受ける人柄ということもあり、この正しさを強要する寺井のキャラクターには意外とハマっていて、本質を見極めた面白いキャスティングだとも感じました!
予想もつかないストーリー!理解のできない領域へ
佐々木と夏月は再会をきっかけにして、再び水に対しての性的興奮を共有していきます。
なかなか想像するのが難しい感覚にいかに自分は「普通」という概念に囚われているのかと感じさせられました。
そんな中、こんな生きづらい世の中を生きていく上で「手を組みませんか?」と佐々木は夏月に対して提案します。
お互い恋愛感情を持たないが、戸籍上は入籍をして共同生活をするというものでした。
ちょっと複雑で難しい関係…。
それが2人にとっては普通の世界に順応しながら、自分たちらしく生きていく唯一の術でした。
自分の感覚に正直になることで佐々木は、活き活きとした感情を取り戻し水に対する感覚を共有できるコミュニティを広げていき、水に触れあっている様子をお互い動画で撮影するようになります。
しかし、このコミュニティがある悲劇を巻き起こすのでした…。
目が離せない直接対決。正しさとマイノリティのぶつかり合い!
佐々木が形成したコミュニティに小児性愛の性的嗜好が混じっており、動画の撮影に子供も参加していたので「児童ポルノ」の疑いにより、同様の疑いから佐々木も逮捕されてしまいます。
なんともやり切れない…。
検事の寺井から取り調べを受ける佐々木と夏月。
児童への性的嗜好を否定しますが、寺井は「ありえない」と一蹴します。
そこで、正しさの強要にもめげず静かに反論する夏月の姿に心を打たれました。
ガッキーの説得力ある演技がすごい!
寺井から夫への伝言はあるかと尋ねられた夏月は、「いなくならないから」とだけ伝えます。
普通の倫理を超えた強い絆を前に寺井はたじろぎます。
寺井は日に日に家庭関係が上手くいかなくなり、離婚調停中だったのです。
取り調べ室に一人残される、寺井を映して映画は終わるのですが、これが「普通とはなにか」という観客への問いかけにもなっているように見えました。
小説版も面白い!原作との比較
朝井リョウさん原作の小説も映画も複数の視点で描かれる群像劇形式でしたが、2時間という上映時間の制約の都合もあり、映画版はうまく整理されていた印象です。
仕方ない部分ですが、原作で最も熱量を感じた大学生のパートは映画版では少し省略されており、もったいない気もしました。
学際実行委員の神戸八重子のエピソードが個人的にはオススメ!
複雑なテーマが扱われているので、映画の鑑賞後に原作を読むことでより理解が深まるのではないかという印象を受けました。
原作小説もとても面白いのでぜひ手に取っていただきたいです!
映画『正欲』感想 まとめ
映画『正欲』は、豪華キャストで難しい題材を扱うことで幅広く注目されて、大きな意義がある作品だと思いました。
- 今までのイメージを覆すような新垣結衣と稲垣吾郎の演技がすごい
- ”普通の人々”が理解できない性的指向を描いた複雑なストーリー
- ラストは観客に対する問いかけも含まれた余韻のあるもの
- 小説版も併せて読むと作品への解釈がより深まるかもしれない
普段はなかなか考えないことかもしれませんが、それを与えるものとして映画の力強さを感じられたので多くの人に映画を観てもらいたいと思います。